墓じまいとは?墓じまいが進む背景、進め方、費用などを詳しく解説
墓じまいとは?墓じまいが進む背景、進め方、費用などを詳しく解説
「跡継ぎがおらず、自分で代が絶えてしまう」、「先祖代々のお墓が遠方にあり、維持・管理の負担が大きい」など、様々な事情でお墓の承継が難しいと考え、お墓を解体して更地にする「墓じまい」という選択をする方が増えています。
ここでは、墓じまいが行われるようになった背景や進め方を中心に、費用や墓じまい後の選択肢などを、総合的に解説します。
目次
▶ 墓じまいが増加している理由
▶ 墓じまいの一般的な進め方
▶ 墓じまいにかかる費用
▶ 墓じまい後の選択肢
▶ 後悔しない墓じまいのために、しっかり事前準備を
墓じまいが増加している理由
墓じまいとは、現在のお墓を解体・撤去して更地にし、その使用権を墓地の管理者に返還することです。なお、墓じまいをした後は、元のお墓から出したご遺骨を、別の場所もしくは別の形で供養する必要があります。
厚生労働省が公開している衛生行政報告例のデータによれば、先祖代々受け継がれてきたお墓を解体・撤去して改葬する事例は年々増加傾向にあり、2016年は9万7,317件、2017年は10万4,493件、2018年は11万5,384件となっています。増加の背景には、いったい何があるのでしょうか。
少子高齢化や核家族化、過疎化の流れ
従来の日本のお墓は、「◯◯家の墓」のように家名が刻まれ、家族や親族のご遺骨を納めて、子孫へと受け継ぐ家単位の継承を基本としていました。これは、明治時代に制定された民法の家制度の名残で、家督を相続する長男がお墓を同時に受け継ぐという考え方にもとづくものです。
しかし、少子高齢化・核家族化が進む近年では、単身者、夫婦のみ、夫婦と未婚の子供、父または母とその子供のシングル家庭など、いわゆるコンパクトな家族が増加しています。その結果、「後を継いでくれる子供がいない」、「子供はいるが男子がいない」といった理由から、現時点でのお墓の承継者が将来のお墓の管理を懸念して、自分たちの代で墓じまいを選択するケースが増えています。
また、地方の場合、そこに住む方が進学や就職、結婚などをきっかけに都市部に移り住むことで、その土地の過疎化が進んでいます。この過疎化も墓じまいが増えている要因のひとつです。
お墓がある土地に住み続ける親が高齢になってお墓参りがままならなくなり、遠方に住む子世帯も頻繁な帰省が難しい状況にあると、お墓はどうしても荒れてしまいます。そこで、「両親を呼び寄せて、お墓も現在の住まいの近くに移したい」、「長男も住まいが違うし、いずれお墓の管理で迷惑がかかってしまう。そろそろなんとかしないと」といった思いが、墓じまいを選択する方を増やしているといえます。
お墓に対する価値観の多様化
多様な生き方を自由に選べる時代になった現在では、お墓に対しても「自分らしさ」や「個性」を求める傾向が高まっています。
このような方の要望に応えるべく、お墓も、その形はもちろん、夫婦用や一人用など、「家族で入るもの」、「代々受け継ぐもの」という昔ながらの観念にとらわれない様々なタイプが登場するようになりました。
お墓に対する価値観の多様化や承継を前提としないお墓の登場によって、「子や孫に負担をかけたくない」、「無理してお墓参りしなくてもよい」と考える方が増えたことも、墓じまいが多く行われるようになった要因のひとつといえます。
無縁墓のクローズアップ
永代使用で契約されたお墓の継承者が途絶えたお墓を無縁墓といいます。
手入れをする人を失った無縁墓は、汚れて雑草が生い茂り、次第に荒れて、周囲の墓域に迷惑をかけたり管理者の負担を増やしたりすることになりかねません。
ここ数年、荒れ果てたまま放置されるお墓や、投げ捨てられた墓石の山など、無縁墓の存在が社会問題としてメディアに取り上げられるようになりました。「いずれ、先祖代々のお墓が無縁墓になるかもしれない」という漠然とした不安感を抱いていた方が現状を知り、危機感が強まったことも、「元気なうちに自分の手でお墓を閉じたい」という行動につながったと考えられます。
なお、こうしたお墓の存在に気づいた管理者は、官報に「1年以内に名乗り出てほしい」という縁故者に向けた通知を掲載し、同時に墓地の見やすいところに立て札を立てて申し出を待ちます。無縁墓を疑う基準は管理者によって異なりますが、お墓の状態や管理費の滞納などから判断されることが一般的です。通知後、1年以内に縁故者からの連絡がない場合、墓地は無縁とみなされ、管理者の手で解体・撤去して更地にし、合祀墓で他の無縁仏とともに祀られることになります。
自身のお墓が無縁墓にならないよう、将来のお墓の管理に不安がある方は、墓じまいについてしっかり検討する必要があります。
墓じまいの一般的な進め方
代々受け継がれてきたお墓を無縁墓にしないためには、承継に不安が生まれた段階で墓じまいを視野に入れ、納得できる改葬先を見つけておくことが大切です。
続いては、墓じまいを決断した場合の具体的な進め方について解説します。
1. 親族の同意を得る
墓じまいをするにあたって最初にすべきことは、事前に関係する親族全員と話をして同意を得ることです。
お墓に対する価値観が多様化し自由が尊重されるようになったといっても、親族の中に「お墓は代々受け継いでいくものだ」という考えの方がいないとは限りません。悩んだときや悲しいときは必ずお参りに行くというように、大切な方のご遺骨を納めたお墓を心の拠りどころとして生きてきた方の中には、「お墓」という形にこだわる方も多くいます。
反対する親族の合意を得ることなく勝手に決断して進めてしまうと、後々大きなトラブルにつながりかねません。墓じまいを進めるためには、「なぜ墓じまいを考えたか」、「墓じまいの後はどうするつもりか」を丁寧に説明し、納得してもらう必要があります。
そのため、この話し合いに臨む際には、事前に既存のお墓に誰のご遺骨が何体入っているのかを確認しておき、それぞれの行き先まで考えておくといいでしょう。最終的には、決定した内容を記した覚書などをつくると、後々トラブルを回避することができます。
2. 管理者に墓じまいをしたい旨を連絡する
墓じまいをすることが決まったら、お墓の管理者である霊園や寺院にその意思を伝え、「埋葬証明書」を発行してもらいます。このとき、長年にわたって檀家としてお世話になってきた寺院が管理者の場合、伝え方によってはトラブルに発展することがあるので注意が必要です。
まずは、墓じまいを決断するに至った事情を丁寧に伝え、理解を求めましょう。
不十分な説明が原因で、墓じまいを断念せざるをえないほど高額な離檀料を請求された事例もあります。あらかじめ離檀料の相場を確かめておくとともに、こじれそうな場合は、速やかに弁護士などの専門家に相談しましょう。
3. ご遺骨の受け入れ先を決める
墓じまい後のご遺骨の受け入れ先としては、別の一般墓や樹木葬、納骨堂など、永代供養をしてくれる施設への改葬、手元供養などがあります。
改葬する場合は、墓じまいの手続きと併せて改葬先を探し、管理者に「受入証明書」を発行してもらう必要があります。
4. 墓じまいの依頼先を決める
お墓を解体・撤去し、更地にする作業を個人で行うのは大きな困難を伴います。供養や諸手続きを滞りなく行うためにも、墓じまいは、代行をしている石材店や専門業者に依頼するのがおすすめです。
依頼先を決定する際には、複数の業者から見積もりを取り、予算とサービスの内容を比較・検討するといいでしょう。霊園によっては、墓地内の通路の幅やセキュリティなどの関係で、依頼できる業者が決まっていることもありますので、事前にお墓の施設の管理者に確認をしておく必要があります。
5. 墓地がある自治体で改葬許可証を発行してもらう
お墓の管理者から発行された「埋葬証明書」、改葬先から発行された「受入証明書」と併せて、現在のお墓がある市区町村に「改葬許可申請書」を提出し、「改葬許可証」を受け取ります。改葬許可申請書は、自治体の窓口やウェブサイトなどからダウンロードすることが可能です。申請書には、改葬する故人の本籍地、住所、氏名、性別、死亡年月日、火葬や埋葬の場所とその年月日、改葬の理由、改葬先、申請者の個人情報と故人との関係などを記入する必要があります。必要となる記載項目は自治体によって異なりますので、あらかじめ情報を集めておくと申請をスムーズに進めることができます。
なお、この手続きは、散骨や手元供養の場合には必要ありません。ですが、場合によっては改葬許可申請書を提出するように求められることもありますので、その際には申請書の改葬理由欄に「自宅供養のため」などと書くといいでしょう。
6. ご遺骨を取り出す
改葬許可証を入手した後は、お墓の中に入っているご遺骨を取り出すことができます。この際、お墓のある施設によっては、お墓に宿る魂をお坊さんに抜いてもらう「閉眼供養」を行います。閉眼供養は、地域によって「魂抜き」、「お性根抜き」などと呼ばれる場合もあります。
7. 墓域を更地にして管理者に返還
ご遺骨の取り出しが完了したら、お墓を解体し墓石を撤去します。土の上の墓石だけでなく、土の中の基礎工事部分までしっかり撤去されたことを確認し、土をならして整地をしたら、管理者に土地を返還し、墓じまいは完了です。
なお、改葬する場合は、改葬先と打ち合わせておいた日程で、お墓の移転工事を行います。新たにお墓を建てる場合は別途僧侶に依頼して、「開眼供養」(魂入れ)を行ってもらう必要があります。
墓じまいにかかる費用
墓じまいをする際には、どのようなことにどのくらいの費用がかかるのでしょうか。墓じまいに伴い発生する費用について解説します。
解体・撤去工事費
解体・撤去工事費は、既存のお墓を解体し、撤去する工事にかかる費用です。平均的には、1平方メートルあたり10万円程度が相場とされていますが、以下の条件によって最終的な金額は異なります。
・重機や運搬機が使用できるかどうか
・墓域の広さ
・墓石の大きさ、墓石の量
・ご遺骨の数
・作業日数
・作業人数
基本的には、重機の使用が困難で、人の手による作業が増えると費用は高くなります。墓域の広さや墓石の状態によって人件費がかさんだ場合も、相場より高くなります。
書類の交付費用
墓じまいから改葬までには、埋葬証明書や改葬許可証などの書類を発行してもらう必要があります。自治体によって差はありますが、だいたい数百円から1,000円程度の手数料がかかります。
お布施などのお礼
お墓を閉じる際の閉眼供養、および新規墓所での開眼供養に伴い、僧侶に支払うお礼が必要になります。相場は、一般的な法要と同程度の2万〜5万円とされていますが、決まった額はありません。地域ごとの常識も異なるため、できれば経験者などに相談しておくといいでしょう。
離檀料
寺院や墓地では、檀家を離れる際の慣習として、離檀料を支払う場合があります。檀家としてつき合いをしてきた年数や関係性によって金額は異なりますが、3万~20万円程度が相場です。
ただし、この離檀料に法的な根拠はなく、支払いに義務はありません。あくまでもこれまでお世話になったお礼の気持ちでお渡しするものですので、高額な請求を受けて断りきれない場合は、しかるべきところに相談しましょう。
ご遺骨のメンテナンス費用
長年お墓に入っていたご遺骨は、傷みやすい状態になっているもの。そのため、ご遺骨をきれいに洗ったり、細かくしたりする作業が必要となる場合があります。洗骨は自分でもできますが、大切なご先祖様のお骨を守るためにも、専門の業者に依頼するのがおすすめです。
専門業者に依頼するときの相場は、1体2万円程度です。なお、散骨のためにご遺骨を粉にする(粉骨)場合の費用は、1万円程度が相場となっています。
新規墓所にかかる費用
改葬先で納骨する際には、一般墓、納骨堂、樹木葬など、納骨の方法によって費用は異なります。最初から合祀する場合は10万円、数年納骨堂に安置した後に合祀へ移す場合は30万~50万円が、ご遺骨1体分にかかる費用の目安といわれています。なお、新たにお墓を建てる場合には、僧侶に開眼供養を依頼する必要があり、3万~10万円程度を支払うことになります。
墓じまい後の選択肢
墓じまいは「今あるお墓を撤去する」ことですが、既存のお墓を撤去して終わりではありません。その後のご遺骨をどのように供養するか、先々まで見越して無理のない選択をしましょう。
墓じまい後の選択肢は、以下のようにたくさんあります。自分と家族の生活スタイルに合わせて、故人をしのびやすく負担の少ない方法を選ぶといいでしょう。
一般墓への改葬
お墓を持つことに不満がなく、手入れも負担ではないが、お墓までの物理的な距離の問題で維持・管理が難しいという理由で墓じまいを選択する方もいるようです。そのような方に適しているのが、別の墓地や霊園の一般墓に改葬する方法です。自宅から近く、通いやすい霊園に墓地を購入するといいでしょう。
納骨堂への改葬
墓地不足の都心を中心に増えている納骨堂は、天候を気にせずお参りできる室内型のお墓です。骨壺を納めるだけのシンプルなロッカー型から、上の段に位牌などを置いて下の段にご遺骨を納める仏壇型、参拝スペースでタッチパネルやカードキーをかざすとご遺骨が運ばれてくる自動搬送型などがあります。お墓をこまめに手入れする時間がない、通勤の帰りなどに気軽にお墓参りがしたいという方に向いています。
手元供養
ご遺骨は、必ずお墓に納めなければならないという決まりはありません。小さくて見栄えのいい骨壺や、ペンダントなどにご遺骨を入れて自宅で管理・供養する方法もあります。ただし、手元供養をしていた方に万一のことがあると、その後のご遺骨の行き場がなくなり、家族が再びご遺骨の行き先を検討しなければならなくなる可能性があります。先を見据えた供養を考えておくことが重要です。
樹木葬
樹木葬は、墓石の代わりにシンボルツリーを植えて、その下にご遺骨を埋葬する方法です。より自然に近い埋葬を目指すなら里山型となりますが、お参りのしやすさや管理面を優先するなら、霊園内の一部に設けられた樹木葬がおすすめです。
散骨
散骨は、ご遺骨を2mm以下の大きさに粉骨し、海や山などにまく方法です。どのような形であれ、お墓の維持・管理が負担であるという場合や、故人の遺志が確認された場合に行われることが多いでしょう。ただし、安易に自己流で散骨を行うと、周辺の利用者や管理者とのトラブルにつながる可能性があります。ルールに則り、周囲の理解を得た上で行いましょう。
永代供養
ご遺骨を改葬しても、健康上の理由や年齢、継承者不足などで長期にわたる維持・管理が難しい場合には、お寺や霊園にお墓の管理を一任できる永代供養を選ぶのもひとつの手です。一般墓のほか納骨堂、樹木葬などにも永代供養つきのものがありますので、関係者と相談の上で決定しましょう。
なお、永代供養といっても、期間の定めなく永遠に供養してくれるわけではありません。霊園によって異なりますが、三十三回忌など一定の期間が過ぎた後は合祀となるので注意が必要です。
後悔しない墓じまいのために、しっかり事前準備を
墓じまいを選ぶ方の多くは、先祖代々受け継がれてきたお墓を大切に思い、無縁墓にしたくないという一心で決断をしているはず。とはいえお墓は、ひとりひとりの死生観や価値観が色濃く反映されるものです。「みんながお参りしやすくなるならそれでいい」という方もいれば、「先祖が守り続けてきたお墓を解体するなんてありえない」という方もいるでしょう。反対意見を無視して強行に墓じまいを押し進めると、後々トラブルが生じることもあります。墓じまいをしてもご先祖様の供養はできるということ、供養には様々な方法があることを伝え、全員の理解を得る努力をしましょう。
また、お世話になった寺院に対しては、墓じまいせざるをえない理由とこれまでのお礼を真摯に伝えることがトラブルを未然に防ぐ上で非常に重要です。
さらに、事前に全体の流れを把握した上で、必要な書類やお布施の額、改葬先などの情報を漏れなく収集しておくことが大切です。
これまでと形は変わっても同じ思いで供養ができるよう、事前準備をしっかり行いましょう。