「おひとりさま」の終活を考える_2
前半では考えられる高齢者「おひとりさま」のリスクについてお話ししました。リスクに備えることで「安心」できます。超少子高齢化社会を迎えた現在は「おひとりさま」の老後は誰も無関係ではありません。心配し過ぎずに、「自分に合った」対策を取っていきましょう。
「おひとりさま」は、「つながる」と「託す」を念頭に
「おひとりさま」の終活で、注目すべき点は2つに大きく分けられます。そのひとつは『健康寿命をのばすこと』。心身ともに元気であれば、長期にわたり自立した生活を送ることができます。これに越したことはないですね。もうひとつは、寝たきりになったり、認知症になった場合に必要な手続きを代行してもらうために『託しておくこと』だと考えます。
「つながる」で健康寿命をのばす
誰かと「つながる」ことで、「コミュニケーション」が生まれます。「つながる」方法はいろいろあります。コロナ禍の今は「オンライン」のつながりも強くなってきています。気持ちと体力と相談し、自身の「つながり方」を考えてみてはいかがでしょうか。
仕事のススメ
セカンドキャリアで働く人は増加しています。定年後に起業する人も少なくありません。シルバー人材センターで派遣業務を紹介していたり、全国のハローワークでは、60歳以上を対象に「生涯現役支援窓口」を開設し再就職の支援を行なっています。働くことは「好奇心が満足する」、「新しいことを常に取り入れるため、脳の老化を防ぐことができる」などメリットだらけ。何より「社会に必要とされる」ことは、生きがいとなります。
私のよく知るご高齢の女性は、10代の頃から花嫁修行の一環として習っていた「茶道」のスキルが認められ、60歳を過ぎた頃からある企業の茶道部で教えることに。週3日、それも社員の就業時間後ですから3時間程度のお仕事です。若いお弟子さんに「先生」と頼りにされています。80歳を過ぎた今も尚、探究心は旺盛で、「生活に張り合いがある」と、楽しそうな話を聞かせてくれます。
また、私の書道の先生は「おひとりさま」。現役時代は、学校で教鞭をとっておられました。リタイヤ後の今は、週に2日程度教室を開き、たくさんの子どもたちや大人に書道を教えています。後期高齢者の一員でおられるそうですが、しゃんと背筋を伸ばして筆をとる姿には、「老人」のイメージは一切なく美しい限り。大勢の教え子たちの名前を覚え、時にやんちゃな小学生男子に手を焼きながらも、イキイキと時間を過ごしておられます。
例に挙げたお二人のように、自身の“スキル”が「仕事」につながることもありあます。他にもリタイヤ後にできる仕事は数多くありますのでチャレンジをオススメしたい。「仕事」をすると…
- ①決まった日時に出勤する
- ②誰かと会って、コミュニケーションを取る
- ③収入がある…
上記のような好影響があり暮らしの向上に直結します。
定期的に誰かに会っていれば、具合が悪い場合など「いつもと様子が違う」ことに、誰かが気がついてくれます。出勤しなければ…「何かあったのでは?」と会社の人が心配して動いてくれます。働くことで「おひとりさま」は、同僚やスタッフが支えてくれます。また、身支度を整える、移動する(歩く)、挨拶を交わす、コミュニケーションが生まれる、話すことでストレスと不安が解消する、社会とのつながりを感じられる、収入がある…他にもメリットは多くあるでしょう。「年金だけでは足りない」という経済的な心配も「稼ぐ」ことで大幅に軽減されます。それに第三者の目があることは、自身を若々しく保ってくれる効果があると感じます。働けるうちは「無理のないペース」で働くのが理想ではないでしょうか。
参加する
「リタイヤ後に、時間ができたら…地域で開催されるお祭りや、ビーチクリーンなどボランティア活動、趣味やサークル活動にも積極的に参加したい」と考える方も多いでしょう。地域や同じ趣味の人とつながって共有する時間は、心身の健康にもなります。また「学んで資格を取得する」という方が集まって「サークル」や「勉強会」を結成するという流れも。現役時代は忙しくてできなかったことにチャレンジして「同じ目標の人」とつながっていくのも生活にハリが生まれます。
「音楽好き」の高齢者が集まってバンドを結成し、「高齢者施設」で演奏している、という男性の話も聞きました。多くの人の前で披露するわけですから、「個人練習」や「メンバーで音を合わせる」など練習も念入りです。楽器は「認知症の予防」にも大きな効果がある、とされていますので、一石二鳥。何より好きな音楽で誰かに喜んでもらえることは、大きな「張り合い」になりますね。
近頃は、リタイア後に「料理」に挑戦する男性をテレビなどで目にします。食生活は「おひとりさま」のフレイルティ(加齢とともに心身の活力が低下した虚弱状態のこと)の予防にも関係してきますので、本格的に料理を身につけるいい機会かもしれません。これを仲間と取り組んで「“食を通した”ホームパーティー」など新しい交流も生まれます。
現役時代に忙しく働いていた方は「地域のコミュニティ」とのつながりが薄い…と少し不安を感じる方も少なくないのでは?ご自身の生活圏内で「自分に合った」コミュニティはないか?インターネットで検索してみる、自治体に情報を探しに行ってみる…など行動すれば案外簡単に見つけられるかもしれません。
住環境をかえて、健康的に過ごす
2017年に「改正住宅セーフティネット法」が成立されました。これは住宅確保に配慮が必要な高齢者や障害者、子育て世帯等が増加する一方で、空き家空室も増加する…これを活用することでスタートした制度です。「おひとりさま」の終活を考える_1でも書きましたが、実際には80代以上の高齢者が一般住宅の住み替えを考えた場合、健康面での審査があったり、孤独死・死後の影響を考えて入居を拒まれるケースが少なからずあるようです。「病院の近くに」、「親しい友人の街に」、「買い物に歩いていけるように」、「さんぽができる公園の近くに」などの理由で「住み替え」を考えるならば、なるべく早めがオススメです。多数の物件を見て回る、引越しすることを考えると、体が動くうちに検討しておきたいですね。
「託す」で準備を整えておく
「もしも」の時は、「おひとりさま」に関係なく…誰にでも突然やってくる可能性があります。ただ「おひとりさま」だからこそより意識して備えておくべき…では?。どんな場面が起こりうるのか?「おひとりさま」の終活を考える_1と合わせて読んでイメージしながら考えていきましょう。
“緊急時、終末期”
- 家で倒れた
- 急な入院時
- 認知症になった
など
「おひとりさま」で一番怖いのは、家の中で突然倒れることでは?家族と同居していても危険は伴いますが、不安は一人の方がより大きいでしょう。万が一の時の対策をしておきましょう。配達サービスの連携とセット、家電などの使用状況、スマホの位置情報で、警備会社や郵便局のサービス、スタッフが訪問する(電話する)…などさまざまなタイプの「見守り」サービスを利用して備えておくなど。どのタイプが自身の希望に合っているのか?内容と予算で検討した上で、契約しておくと安心ですね。
ケガや病気に備えて、生活面で必要な手続きや支払いなど、財産管理を代わりにしてもらう「任意代理契約」を結んでおくことも検討しましょう。また判断能力のあるうちに、【将来判断能力が衰えた時に備えて交す】のが「任意後見契約」。成年後見制度を利用することで高齢者の「暮らし」と「権利」を守ってくれます。家庭裁判所、自治体、地域包括支援センター、社会福祉協議会などに相談ができます。
また、厚生労働省は「人生の最終段階における医療・ケアの 決定プロセスに関するガイドライン」(ACP)改訂版を平成30年3月に公表しました。これには家族や友人や医療関係者と「医療やケアについて、どのようなケアや終末期を望むか?どんな生き方をしたいか?」を意識がしっかりしているうちに繰り返し行うことが重要としています。そして都度、文章などに残しておくことを推奨しています。「おひとりさま」は家族と同じような立場で支えてくれる、親しい「友人」が本人の意思を伝えてくれることができる、と示されています。終末期をどう過ごしたいか?…考えたくはありませんが、一緒に考えてくれる友人と共有しておく…と安心ですね。
参考:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省)
“託す人がいない”…託すための準備
- 遺産(金銭に関係する相続)
- 遺品(思い出に関係する相続)
相続人がいない場合、「おひとりさま」は死後に必要な経費を除いて残った財産は、最終的には国庫に納められます。自分のお金を自分の意思でどう活かされたいか?をあらかじめ「考えておく」こともできます。遺言書によって、NPO法人や学校法人、公益法人などに遺贈できます。飢餓に苦しむ国の子どもたちを食糧支援したり、難民の保護活動に支援したり、医療現場での実用化を目指す研究に活用するなど、「遺贈寄付」を通して「社会貢献」に「託す」ことができるのです。
遺品については、なるべく元気なうちに「必要な」「大切な」モノだけでの暮らしがオススメです。最近50代の「おひとりさま」が、暮らしを「スリム化」するブログが話題になり書籍化されました。軽やかに暮らすことは、より健康寿命を延ばすことにもつながります。「不要品」は元気で気力のあるうちに「見直し」しましょう。
高齢者の住まいは、モノが溢れて居住スペースを圧迫している…というケースが多い。これは大変危険です。床に置いたモノにつまずいて転倒し骨折するという事故は少なくありません。そのまま「寝たきり」、「要介護状態」につながる可能性も。「より安全な暮らし」を一番に考えていただきたい。長らくしまったままの引出物のワイングラス、開店祝いにもらった花器、着られなくなった毛皮、使っていない大量の文房具、着ていないスーツ類など…。自身が把握する量を大幅に超えたなら、元気なうちに「処分」を。加齢とともに「おっくう」になることで、ますますモノの量が増えます。そうなる前に「暮らしの向上」をめざしましょう。
「寄付」することで、「社会貢献」も
- ワクチンで世界の子どもの命を救う
- 国内の児童養護施設、老人福祉施設などの活動を支援する
「まだ使えるからもったいない」と感じている人も、「不要品」をおくることで「社会貢献」に繋がると分れば、手放せるのではないでしょうか。「モノ」を所有することは「責任」も伴う、ということも心に留めていただきたい。所有者がいなくなった途端に「廃棄物」とするより、「誰かのために」利用できれば素晴らしいことです。「モノの最終のカタチ」を想像して、どうしたらいいのか?考えましょう。ただ「使わないで、放置しておく」と、家にモノは増え続けます。モノが溢れたら「おひとりさま」の場合、社会に与える弊害はより大きいと考えます。インターネットで「不要品」「ワクチン」「寄付」などで検索し、早めに少しずつ取り組んでみましょう。
“死後に備えておく”
- 葬儀社に連絡
- 死亡届、埋火葬許可申請書の提出
- 健康保険、介護保険の資格喪失届
- 年金の受給停止手続き
- 公共料金等の停止や生産
- 相続税の申告・納付
など各種手続き
「死んだ後のことなんて…自分でできないし、考えられない」、というのは人情だとは思います。ですが上記のような、数多くの手続きを「誰か」がしなければなりません。それも7日以内に死亡届等、14日以内には健康保険、介護保険の資格喪失届…とはっきりとした「期日」があります。私の友人の話ですが「父が亡くなった時、私が全部手続きをしなければならなくて。どこに何があるかも、何も記していなかったからとても大変だった」ととても疲れた様子でした。家族が手続きしてくれる方でも「エンディングノート」などに書き残していなければ、子世代に大きな負担をかけることになります。ですから「おひとりさま」は、より意識して、死後の手続きを誰かに託しておかなければなりません。死後の手続きを依頼できる契約は、NPO法人や一般社団法人、ここ4、5年は自治体による終活支援事業もではじめています。超少子高齢化が進む今後は、自治体による終活サポートが期待できそうです。
まとめ
友人や親世代のケースを目の当たりにして感じることは、「おひとりさま」だろうが、夫婦でも、たとえ子どもが居ようと…「大切なこと」はほとんどかわりはありません。「健康で長生きする」、「託す」この2つだろうと思います。自身でできる“備え”をしなかったために、「誰かに大きな負担を掛ける」ことになるとしたら、早めに「自身で動く」ことは当然のことでしょう。超少子高齢化を生きるこれからの大人世代は、「自分のことは自分で行う」という意識を高くする必要がある、と考えます。
© 2021 澤渡裕子